よろこびもかなしみも

e0056237_1285934.jpg午前中、たまった家事を片づけていると、この春初のてんとう虫をみつける。うれしかった。
指の先まで登って、ぱっと羽根をひらいて空へ飛んでった。
何度やってみてもこれが面白くて、いつも指を登ってもらう。

午後、中学で生徒達の合唱を聴く。昔は、どちらかというと気恥ずかしいような印象で、興味すらなかったのに、今は真剣に聴いてしまう。仕事にかかわる分野でもあるからなのだが、それよりも、やっぱり子どもたちの声というのはいい。
合唱は、歌い手の個性はあまり重視されないかわりに、歌そのもの、言葉そのものがまっすぐに伝わってくる。生半可にごまかした言葉では、人の心には響かない。
聴いているだけで、とても勉強になる。

合唱のあとは学年の保護者会。熱意と誠意のある先生が多いのは、とてもありがたい。
受験までの小手先の子育てではなく、人として一人前にするためにどう育てて行くか、ということをともに考えようとしている。
I先生の話。授業中に言うことを聞かない子どもに注意したら、「どうしてそんなに俺にばかり言うんだよ」と言われ、思わず「あなたを愛しているからよ」と答えてしまった。その瞬間、生徒は真顔になって先生を見つめ、なんとも静粛な時間が訪れたという。
口にする人によっては、まったく逆効果になるような話だ。でも、優しいお母さんという感じのI先生を、その時、ぱーっと白い光が包んでいるように見えた。自ずと頭が下がる気持ちだった。

終了し、学校を出て数歩歩いたところで、私の中学時代の同級生のお母様に行き会った。
本人とは、卒業以来会っていないかも知れない。お父さんはとうに亡くなったので、お母さんは今は一人暮らしをされているはずだ。
「Mちゃんはお元気ですか」と尋ねると、「ううん、元気じゃないの。病気になっちゃったの。」と思い詰めたように話しはじめる。
一年前から腎臓を患い、命拾いはしたものの、人工透析を週三回しなければならない状態だそうだ。結婚して他県に住んでいるので、実家にも帰って来られない。
生きている意味がないと言う娘がかわいそうでならない、と。
毎日、一人で床につくと娘の顔が浮かんできて、眠れないという。
「みんな私のせいなの。私が悪いのよ」と、お母さんは言った。
小柄なその手を握って、「そんなことはありません」と言う他に、どう慰めていいのかわからなかった。「あなたは体を大事にしてね。お子さんもいて、まだお父さんお母さんもお元気なのだから、健康診断はきちんと受けて、親より先に・・・なんてことの決してないようにね」
普段は、ほとんど軽く挨拶をするだけなのに、私が声を掛けたことで、一人の胸に積もったものがあふれ出したようだった。「誰にも言ってなかったのにね」と、涙ぐんで、「あなたは大事になさいね。」と繰り返し言って別れて行った。
別れ際に、とっさに「今度お茶でもご一緒しましょう」と言ったのだが、そうしたところで、私に何ができるだろう。切なくなる。
事情はわからないが、ぜんぶ私のせいなの、というお母さんの言葉は胸に突き刺さった。
愛はよろこびであり、かなしみなのかも知れない。
子である自分、親である自分、それぞれの痛みがある。
私はわかっているだろうか。本当にわかろうとしているだろうか。

そのあとは走って家に帰る必要があった。下の娘とその友だちを二人連れて、演奏会に出かけることになっていたから。
子どものお喋りの輪の中に混ぜてもらって歩くのは、久しぶりで、とてもうれしいひととき。
そして、それは、とても楽しくて心躍るコンサートだった。ご招待して下さった方の作った曲が、どれもとてもよかった。
音楽を構築するって、どれだけすごいことなのか。しかもそれが人の心を打つということは・・・。

色々なことがあり、色々な気持ちが訪れた一日。
キラキラ輝く金管楽器の光と音が、今日という日に、しおりのように挟み込まれている。

感謝、の一日。
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Commented by Take at 2006-03-22 11:48 x
本当に色々な事が有る中、ご来場頂きまして
ありがとうございました!
楽しく過ごせていただけたならば、幸いですm(_ _)m
手前味噌ですが、個人的に「青と碧~」は相当な
お気に入りになってしまいました(笑)

「並木道~」なんてのもありましたが、
これからもまだまだ続けて行くつもりデスので、
今後とも、どうぞ宜しく御願い申し上げますm(_ _)m
Commented by rikakokoro at 2006-03-24 22:13
>>Takeさん
また聴きたいですねえ。ぜひ!
Takeさんにはきっと明確なイメージがあって、それが目に浮かぶように伝わって、楽しいです。
楽曲を創るって、すごく立体的な作業ですよね。
それを、観衆の前にどーんと出せるというのはすごい。
気持ちいいだろうなあ・・・・。やめられないだろうなあ・・・。

並木道・・・は先日の卒コンで演奏しましたよ!
私はこれを聴くと○杉通りをゆったりと歩きたくなります(笑)。
by rikakokoro | 2006-03-12 02:36 | ココロの栞 | Comments(2)

長井理佳。童話作家で作詞家。仕事歴は以下のプロフィールのページにあります。


by RIkaNagai
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